真新しい墓石を磨き上げ、仕上げに清められた水をかける。
しがみつかんばかりの近さで磨いていたそれから離れ、持参してきた純白の花冠をそっと飾った。
滑らかな表面を伝う水が陽光を浴び、涼しげな光を放っている。

ガルシアは満足げに小さく微笑み、片方しかない黄金の目を潤ませた。

「パパ、ママ。とても良く似合うわ。」

墓石が座す小高い丘の上方には、瑞々しい青さを湛えた夏空。
その中を絵の具を垂らしたような存在感の雲が気ままに泳ぎ回っている。
眼下には穏やかな波音が心地の良い白い砂浜が広がり、
家族や恋人、友人と海水浴に来た者達で賑わっている。

理想通りの立地だが、永く祖国を離れていた彼女の両親には遺体がなく、
悩みぬいて選んだ墓石の下にあるのは冷たい地面ばかり。
それでもこうして墓を建て、気持ちばかりだが、供養することが出来る。
そして何より、建てたばかりのそれは既に、ガルシア自身の心の拠り所となっていた。

カモメの鳴き声が耳からしみ込み、そっと目を伏せる。

瞼に浮かぶのは、自らを絡めて離さなかった粘着質のドス黒いモノ達を瞬く間に溶かした、
何よりも柔らかく、震えるほど暖かな、みどりの燐光。
血に濡れた頬を優しく包む、少女のように小さな手。
子守唄のように紡がれた、救いのまじない。

知らず、透明な滴が頬を伝っていた。
気づいたガルシアは自嘲気味に笑い、陽光を跳ね返す墓石に頬を寄せた。

「パパ、ママ。あたしとても良い子に会ったのよ。
誰にも許されないようなことを沢山してきたのに、すごく優しくしてくれたの。
あたしの怪我を引き受けて、枷を外して、嫌なものを全部溶かしてくれたのよ。」

だから今、こうして念願の場所に、念願の墓をたて、そこに参ることが出来る。
いくら洗っても消えぬほど罪が染み込んだこの手でも、純白の花冠を手向けることが出来る。
願わくばどうか、彼女に世界一の幸福が訪れてほしい。

「あの子のおかげで、あたしのことを許してくれた人達がいるの。
お父さんを殺してしまった人。友人の足と、自身の目を奪ってしまった人。」

彼らは今、どうしているだろうか。
その慈悲深さに見合う穏やかな時を、過ごせているだろうか。

「それにとっても偉い人達が良くしてくれたのよ。
あたし本当は死刑になるはずだったのに、こんなに早く出所できたの。」

偏屈な賢者と、気高い侯爵。
二人は協力的な姿勢を示したガルシアが出所し、祖国に帰れるように手配してくれた。
彼女の古くからの友人だと言う彼らは頼もしく、
彼女が覚醒させたガルシアの正気をさらにはっきりしたものへと成長させてくれた。

潮風に散らされていく花冠を眺めながら、乾かぬ頬を手の甲でぬぐう。
自身の涙に濡れた手をぼんやりと見やったガルシアは、
何かを思いついたように身を起こし、墓石の下を掘り始めた。

健康的な薄桃色の爪が土の色に染まった頃、
そこには丁度拳一つ分の小さな穴が出来上がった。

ガルシアはもう一度救いの日々を思い出し、溢れた涙をその穴に落とした。

満足げにため息をつき、ゆっくりと穴を埋め、晴れやかな笑顔で立ち上がった。

「また来るわね。」

夕焼けに染まる海辺の丘を、穏やかな潮風が吹き抜けていった。


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ハルED後のガルシアさんでお墓参り。
正気に戻った彼女は本来の気弱で優しい人柄に大変身。
ささやかな幸せを掴んでほしいと願う一方で、近い将来酷い死に方をするような気がしてなりません。
復讐だーって誰かに斬りかかられたら、それを甘んじて受けたりしそうです。
ちなみに出所後の彼女はハル・アレスED共通で、傭兵やめて花屋でバイトしている設定です。
セレスED後はどうなるんでしょうね。
セレスは優しいから死刑は免れるんじゃないかと思いますが、
秘術イベントがないので狂気から抜け出せないままなんじゃないかと心配です。
なんだかんだあってもガルシアと和解してしまったアレスのお人好し加減も心配です(笑)

後書きが少し長くなりましたね。
プレイして下さった皆様が、素敵なお盆をお過ごせますように。

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